仕事で疲れ果てて帰宅した午前二時のマンションで、私は人生最大の窮地に立たされました。いつものようにトイレを済ませ、眠い目をこすりながら流した瞬間、水位が尋常ではない速さで上昇してきたのです。便器の縁まであと数ミリというところで水は静止しましたが、そこには形容しがたい絶望感が漂っていました。マンションの深夜は静まり返っており、水の流れる音さえ隣室に聞こえないか神経を使うほどです。もし今ここで水が溢れたら、新築で購入したばかりのこの部屋の床が汚れ、階下の人には何とお詫びをすればいいのか。パニックになりながらも、私はスマートフォンのバックライトで便器の中を照らし、状況を把握しようとしました。まず試したのは、ネットで見かけたお湯を流すという方法です。四五十度程度のぬるま湯を高い位置から細く注ぎ入れ、トイレットペーパーがふやけるのを祈りました。しかし、水位は一向に下がる気配を見せません。次に、台所用洗剤を投入し、タンパク質や脂分を分解することを期待しましたが、それも虚しく時間が過ぎていきました。マンションの管理センターに電話をしても、この時間は自動音声に切り替わっており、途方に暮れるしかありませんでした。結局、私はコンビニまで走り、二十四時間営業の店舗で売っていた最後の一つのラバーカップを握りしめて帰宅しました。深夜の静寂の中、近隣に迷惑がかからないよう静かに、かつ確実にカップを便器に押し当て、グッと力を込めて引きました。数回の格闘の末、突然ズズズッという重低音とともに、汚水が一気に吸い込まれていったのです。あの時の解放感は、これまで経験したどんな達成感よりも勝るものでした。原因は、前日に大掃除をした際に流した、三枚ほどの流せる掃除シートだったようです。流せると書いてあっても、マンションの複雑な配管経路では、深夜の低い水圧環境下では命取りになるのだと思い知らされました。この事件以来、私のトイレには常にプロ仕様の真空ポンプ式クリーナーが備え付けられ、紙の量にも異常なほど敏感になりました。マンションという、壁一枚隔てた他者との共同生活の中で、自分の不始末が誰かの生活を壊しかねないという恐怖は、私に集合住宅に住む者としての真の責任感を教えてくれました。それ以来、私はマンション内の掲示板にある排水管清掃の通知を、自分への最も重要なメッセージとして受け止めるようになっています。
深夜のマンションで起きたトイレつまりへの絶望と克服の体験記